地域開発グループは自主的にグラスルーツ(草の根)で組織され、その数は約四〇〇〇に上る。スウェーデンの人口は約六〇〇万人で、市町村(コミューン)の数は約三〇〇〇である。つまり、地域開発グループはサブ・コミューンという生活単位ごとに組織されている。日本でいえば、生活共同組合などが中心となって展開しているワーカーズ・コレクティブをイメージしてもらえばいいかもしれない。
だが、ひとくちに地域開発グループといっても、創造する「職」の範囲は広く、大きく三つに分けられる。
第一に、福祉や家事、住宅の維持管理などにかかわる家族内の無償労働で担われてきたような、基礎的サービスである。第二に、地域の観光事業やそれにかかわる道路整備や施設整備、さらに地域文化のイベント事業である。第三に、ソフトウェアの開発や応用、あるいはデータ処理など情報技術(IT)を駆使した知識集約型産業である。
こうした国民連動の伝統にもとづく学習サークルや地域開発グループに対して、スウェーデン政府はレーンごとに支援センターを設置して支援している。レーンとは日本の道府県にあたるランスティングに見合った中央政府の行政区画である。したがって、中央政府が道府県ごとに、地域開発グループを支援するセンターを設けていると考えればよい。
学習サークル運動とは、十九世紀末にスウェーデンがデンマークから学んだ伝統的な国民教育運動である。国民が自主的に自己の能力を高めるため「働く友人の集い」とも呼ぶべき「学習サークル」を組織し、スウェーデンの成人の二人に一人がこの学習サークルに参加している。一九九〇年代には、情報教育関連の学習サークルが激増し、産業構造の転換を推進したのであった。
こうした学習サーイクルは、教材などの一部を政府が負担している。しかし、地域開発グループに対する支援センターでは、現金給付をするのではなく、グループの組織化や経営のノウハウなどを支援するサービス(現物)給付が中心になっている。しかも、支援センターは上から地域開発グループを組織化することはしない。あくまでも地域住民がグラスルーツで「職」を創造していくために組織した地域開発グループを支援してきた。
そうした地域開発グループの目的は、地域経済の再生だけではなく、「社会資本」の整備にもある。社会経済モデルでいうところの「社会資本」とは、人間の絆を意味する。つまり、人間の絆を強め、地域社会の民主主義を活性化することがめざされているわけだ。
社会経済モデルでは、「社会資本」は、「知識社会」を支える社会的インフラストラクチュアだと位置づけられている。つまり、人間の絆を強めれば、「知識社会」への転換を図り、経済の活性化も可能になると考えられている。
もちろん、こうした国民運動に対応した職業転換を推進する政策として、「成人教育計画」をスタートさせている。日本の高校に相当する学校教育を受けている失業者に対し、教育を無償提供するとともに、生活費も保証するプロジェクトである。政府と民間企業が協力した産業クラスター(群)も派生している。しかも、積極的労働市場政策に対する支出は、皆無といってよい日本に対して、スウェーデンはGDP比で三パーセントに迫ろうとしており、世界一の支出を誇るといってよい。
とはいえ、スウェーデンに学ぶべき点は、地域住民の自発性と、政府の政策、企業の経済民主主義的経営が有機的に関連づけられ、産業構造を転換させたことにある。しかも、その原動力は、あくまでも地域社会の構成員によるグラスルーツの運動にあることを忘れてはならない。
