避難者訴訟 第14回期日について
 
 
 
 
 

避難者訴訟 第14回期日について

 

151209 弁護士 笹山 尚人

鳥飼 康二

 

1、迎えた第4回の本人尋問。楢葉町住民から初

 平成27年12月9日に実施された避難者訴訟第14回期日は、原告本人尋問の第4回でした。

 今回は3名の原告でしたが、全員楢葉町からの避難者であるところが特徴です。ご承知のとおり、楢葉町は2015年9月に避難指示解除となりました。帰還するかしないかの問題がより切実に問題になります。そこをどう語るかが一つのポイントでした。

 今回法廷に立ったのは、Eさん(担当・米倉勉弁護士)、Wさん(担当・高橋力弁護士)、Nさん(担当・深井剛志弁護士)です。お一人あたり主尋問60分、トータルで90分ほどの長丁場。傍聴したみなさんもお疲れになったと思います。何より尋問を受けた3名の原告の方、そして担当弁護士のみなさん、お疲れ様でした!

 

2、主尋問で明らかになったこと

 前回もそうでしたが、3名の原告は素晴らしい証言をしました。私の一番の印象は、「事故前の楢葉町って、ものすごく良いところだったんだな。一度行ってみたかったな。」ということでした。どなたの証言にも、ふるさと「楢葉町」の素晴らしさを、それぞれに語るものでした。

(1)最初のEさんの尋問では、「家族離散」が大きなテーマとなりました。Eさんは、3世代家族で、豊かな老後生活を楽しんでおり、特にお孫さん(当時4才)とのふれあいは、かけがえのないものでした。ところが、原発事故によって、Eさん家族は、いわき(2か所)と東京の3か所で、バラバラに避難生活を送らざるを得なくなりました。お孫さんと面会したときの別れ際、お孫さんがEさんの腰に抱きついて離れようとしない、Eさんの車に乗り込んで降りようとしない、この切ない情景が語られたとき、傍聴席のみならず裁判官も涙を流していました。裁判官がこの原発訴訟で涙を流したのは、初めてだと思います。

また、避難生活の苦しさについて、「原発事故で自殺した人の気持ちがわかりました」と語ったとき、Eさんは、当時の辛い心境を思い出したようで、涙を浮かべていました。

(2)2人目のWさんは、農家のご二男ですが、家業を継ぐことになり、いわきから楢葉町に転居された方です。平成8年に楢葉に移られてから、農業を継ぐことと、町に溶け込むことに懸命な努力をされた結果、ふるさとといえる関係を築かれました。

 最後に語られた、「ふと、楢葉町で子どもたちを育てていた時のことを思い出す。子どもたちは、気持ちで誰にも負けないやさしさを持った子どもたちに育てることができた。その子どもたちの子ども、孫たちを、子どもたちと同じように、海に連れて行き、川に連れていき、そうして情の世界を育てたいと夢に思っていた。今、それをやりたかった。楢葉の将来を担う子どもたちに、そんな未来をプレゼントしたかった。しかしいま、3歳の孫にそれができない。あの狭いアパートの中で、妻とどうしたらいいか、日々悩んでいる。妻と楢葉に行くたびに、楢葉はいいなあ、楢葉に帰りたいなあ、と語りあう。私たちはそんなふうに、必死に避難している。本当は、賠償金とか、そういうことではない。元の楢葉に戻してもらいたい、それだけなんだ。」

 というお話が、涙なしに聞けませんでした。奪われたふるさとの重みを、ずっしり感じた証言でした。

(3)3人目のNさんは、40代の4人家族のお母さん。楢葉の人が、自然が好きで、楢葉にこだわりの自宅を建てて、草木にあふれ、子どもたちが思いっきり外遊びが出来て、ご主人も楢葉の自然を満喫できる。前半は、そういう幸せだった日々が、細かい一つ一つのエピソードを積み重ねて明らかになりました。

 後半は、避難を余儀なくされて、家族全員が精神のバランスを失っていく様子が語られました。

 愛着込めた自宅の荒れ果てた様子に触れ、Nさんは、「無念」と語られました。何が無念かと問われ、「未来がなくなってしまったことに無念を感じる」、と答えました。未来がなくなる。原告でなければ語れない、重い言葉だと思いました。

 

3、東電代理人・裁判官からの質問

(1)これに対し、東電の代理人弁護士による反対尋問は、楢葉の空間線量が低いことを突くことに一つの特徴がありました。

 楢葉町の場合、現在の公式発表では、空間線量は、ほぼ毎時0.1〜0.3マイクロシーベルトになっているという事実を知っているかと聞き、コンビニなどが開業しつつあるといったことにも触れ、「危険はないし、もう戻れるよね」ということを印象付けるというものです。

 3人の原告のこたえはそれぞれでしたが、空間線量の数字だけで帰還するかしないかを検討できるものでない、空間線量の数値そのものの信用性をどう見るかに問題があると言ったいくつかの観点から切り返せていました。

(2)裁判官が聞きたいことを最後に補充的に聞く尋問は、本件の核心に質問が迫り始めた、という印象です。

 相変わらず細かい問題に関しての質問が多いのですが、「帰ることができないというのは、放射線量に不安だからできないということか。」という質問がありました。また、「お孫さんと暮らすこと自体には生きがいはあるといえるか」との質問をして「それはそうだ」と答えたWさんに、「お孫さんは帰還できない、でもあなたは楢葉に帰りたい、お孫さんとは別れてでも楢葉に帰りたいということか」という質問がありました。これにWさんは、「帰りたいという気持ちがある」と答えました。

 楢葉町の場合、国の線引きでは、「帰還が可能」ということにされ、「帰りたい」という望郷の思いが強い原告の皆さんは、それゆえに悩みが深い。裁判官の質問は、その悩みの内容に(それ故に苦しい状態であるということに)、やや遠回りな形ではありますが、触れる質問でした。

 裁判所にさらに一層本件の内容を理解してもらうように、尋問を工夫するなどしていかなければと思いました。

 

4、裁判所に「分離の申し入れ」「迅速的計画的な尋問」

 本日最後に、弁護団は、第3次提訴分以降の分離の申し入れを行いました。 現在行われている尋問は、第2次提訴分までの原告の尋問を終結させ、できるだけ早期に勝利判決を獲得することを目標に取り組んでいます。しかし、この進行自体決して早いとはいえないこと、とりわけ第3次訴訟以降の進行が全く進んでいないことが問題になっていました。

 そこで弁護団は、訴訟の進行を促進するため、現在3名の合議体の裁判所について、法律に基づき5名の合議体に拡充し、5名で分担して尋問を行うことで進行を促進させること、尋問は来年7月〜9月の間に集中的に尋問を行うこと、を申し入れていました。

 法廷ではそれに加え、第3次訴訟以降の審理を分離し、これはこれで第2次提訴分までと審理を並行して行うこと、その審理計画を作成するための進行協議期日を設けることを申し入れました。

 裁判所では、検討することになりこの日は終了しています。

 できるだけ早く判決の結論を得るように手続きは進めたい。しかし一方で、拙速に結論をただ急ぐと、本件の内容に十分理解のないまま、不十分な判決となりかねません。十分に審理をしながら、できるだけ早い審理を実現する。この難しい課題に弁護団は取り組んでいます。

 

5、最後に

 いずれにせよ、今後も原告のみなさんが法廷で話をする機会がしばらく続きます。担当弁護士との間で何をどのように話すか、打ち合わせの準備も必要です。原告のみなさんと一緒に、尋問を成功させていきたいと考えています。よろしくご協力のほど、お願いいたします。

 次回は、2016年2月17日(水)、午前10時から。4名の原告の尋問を予定しています。

                               以 上